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「社会的な割引率」を用いた投資判断の是非について、

新聞記事は、「JR津田沼駅南口の再開発事業(モリシア津田沼の建て替え)」が、建築費高騰の煽りを受けて「最低10年間の棚上げ(凍結)」となり、代わりに既存施設の改修・部分的再開へと舵を切ったという衝撃的なニュースですね。

この「社会的な割引率」を用いた投資判断の是非について、専門的な視点から整理します。

 

1. 文化ホール事業における「社会的割引率」の考え方

通常、公共事業の投資判断では、将来発生する便益(文化価値など)を現在の価値に換算するために社会的割引率を用います。

 * B_t: 各年度の便益(文化・経済効果)

 * C_t: 各年度のコスト

 * r: 社会的割引率

「今、投資に踏み切るべき」というエビデンスを作るために、将来の文化価値を高く見積もり、現在価値として算出することは理論上可能です。特に文化施設は、単なる入場料収入だけでなく、「市民の幸福度向上」「地域ブランド化」「周辺経済への波及効果」といった非貨幣的な便益が大きいため、これらを数値化(仮想市場評価法:CVMなど)して計算に組み込むべきだという議論は非常に有効です。

 

2. 現状で投資判断が成り立つかどうかのハードル

しかし、記事にある野村不動産と習志野市の判断を分析すると、以下の3つの「不確実性」が計算を困難にしています。

① 建築費高騰という「分母」の肥大化

どんなに将来の文化価値(分子)を高く見積もっても、現在の建築資材・労務費の高騰がそれを上回るスピードで進んでいます。今の経済環境で強行すると、負債が将来の文化価値を食いつぶす「逆ザヤ」状態になるリスクを懸念したと考えられます。

② 「10年の棚上げ」による社会的便益の毀損

「今建てる」判断をするには、10年後の完成を待つよりも「今すぐ供用を開始して便益を発生させる」方が割引率の影響を受けにくく有利です。しかし、記事にある通り「180度方針転換して既存施設を改修して使う」決断は、巨額の投資を今行うリスクを避け、中短期的な便益を確保しつつ、経済回復を待つ「リアルオプション(待機オプション)」を選択したと言えます。

③ 計画の未定性

ご指摘の通り、再開発の全体像が「未定」である以上、キャッシュフローや便益の予測期間が設定できません。この状態では、どんなに精緻な計算式を用いても、前提条件(パラメーター)が恣意的になり、投資判断の妥当性を証明するのは非常に困難です。

 

3. 結論としての見解

「文化価値を現在価値に推定する計算」は、やるべきですが、今は「再開発」のためではなく「改修・存続」の妥当性を裏付けるために使われるフェーズにあると考えられます。

 * 今すぐの再築投資: 経済的不確実性が高すぎて、社会的割引率をどう設定しても「赤字(NPVがマイナス)」になる可能性が高い。

 * 10年間の部分的再開: 巨額投資を凍結しつつ、既存ストックを活用して「文化の火を消さない」ことで、将来の再開発へのエネルギーを維持する判断。

皮肉なことに、今の状況で無理に計算を行うと、逆に「今の経済状況では投資不可」という結論が数字で突きつけられてしまう恐れもあります。

 

次のステップへの提案

この「10年の猶予期間」を使って、「新しい文化ホールがどれほどの経済的・社会的価値を地域にもたらすか」を市民参加型で再定義・調査(CVM調査など)し、10年後の着工時に向けた「最強の投資理論」を構築しておく。

習志野市の文化価値を数値化する具体的な手法(アンケート設計や経済波及効果分析など)について、研究する

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