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『インフレの時代』(渡辺努)中央公論新社

2026-5-7

『インフレの時代』(渡辺努)は、「2022年以降の日本のインフレは異常ではなく正常化であり、賃上げと価格メカニズムの復活こそが日本経済を再生させる」という立場を明確に示した一冊です。特に高市政権の積極財政については、可能性はあるが、供給制約を無視すれば危険というバランスの取れた評価が特徴です。 中央公論新社

1. 本書の全体像(要点を最短でつかむまとめ)

 本書が一貫して主張するのは次の3点です。

• 日本は30年続いた慢性デフレから脱し、インフレの時代に入った

• インフレは悪ではなく、賃上げとセットなら正常な経済の回復である

• 財政・金融・賃金の三位一体で「価格メカニズム」を取り戻すことが重要

中央公論新社

 渡辺氏は、デフレ期の日本は価格が動かず、企業が値上げできないために賃金も上がらず、資源配分が歪んだ「旧ソ連型の価格メカニズムの停止状態」にあったと指摘します。

 

2. 各章のポイント(構造的に整理)

 ●第1章:賃金・物価・金利の正常化

• デフレは「価格が動かない」ことによる資源配分の停滞

2022年以降、企業が値上げを受け入れ始め、賃金も上昇

• 金利も正常化へ向かう流れが始まった

中央公論新社

 ●第2章:インフレがもたらす“3つの正常化

• 価格メカニズムの復活

• 実質為替レートの正常化(円安はむしろ是正)

• 政府債務の正常化(名目GDP増で債務比率が改善)

中央公論新社

●第3章:インフレと日銀

• インフレは一過性ではなく、国内賃上げが持続性を生んでいる

• 日銀の予測ミスや政策判断の遅れを批判

中央公論新社

●第4章:インフレと賃上げ

• 「安いニッポン」から脱却するには値上げと賃上げの両立が不可欠

• 最低賃金引き上げは必須

中央公論新社

 ●第5章:インフレと財政(=高市政権の積極財政の核心)

• 賃金と物価を上げるための財政支出はためらうべきではない

• インフレ2%経済では税収が自然に増える(インフレ税収)

• 消費税減税の効果は限定的

中央公論新社

  

3. 高市政権の「積極財政」への著者の評価(最重要)

 本書のコラム「高市政権の積極財政の可能性とリスク」で渡辺氏は、次のように整理しています。

●(A)積極財政には可能性がある

• インフレ下では名目GDPが伸び、債務比率が自然に改善

• 賃金上昇と価格転嫁が進む局面では、財政支出は経済の好循環を後押しする

• デフレ期とは異なり、財政拡大が需要不足の解消に直結する

(※本書の主張からの整理)

 ●(B)しかしリスクも大きい

渡辺氏は、積極財政を無条件に肯定していません。

• 供給制約(人手不足・物流・エネルギー)を無視した財政拡大は危険

→ 需要だけ刺激しても「悪いインフレ」(物価だけ上昇)を招く

• バラマキ型の財政では生産性向上につながらない

• 金融政策との整合性が不可欠

→ 利上げと財政拡大が同時に進むと政策が相殺される

 

●(C)著者の結論

「積極財政は“条件付きで”有効。賃上げと供給力強化を伴わなければ逆効果。」

 これは、

• 三橋貴明の積極財政=善

• 財務省の緊縮=善

のどちらにも寄らない、実証的で中庸な立場です。

  

4. 本書が示す「インフレ時代の日本の針路」

• 賃上げを伴うインフレは、日本経済の正常化である

• 財政は賃金と生産性を上げる投資として使うべき

• 供給制約を無視した財政拡大は危険

• 金融政策・財政政策・賃上げの三位一体が不可欠

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