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歴史教育と戦後歴史学の軌跡 → 歴史総合

歴史像を伝える③ 成田龍一 著 岩波新書

新科目「歴史総合」の導入を契機として、「歴史を学ぶとはどういうことか」という本質的な問いと、「戦後日本における歴史学と歴史教育の歩み(史学史・歴史教育史)」を考察した内容です。

1. 新科目「歴史総合」がもたらした転換

「歴史総合」は単なる新科目ではなく、これまでの「暗記中心の歴史学習」を根底から変える役割を持っています。

  • 歴史は「事実の暗記」ではなく「解釈」である(α 歴史の「事実」とされるものは、時代や立場による「解釈」によって成り立っています。歴史は固定されたものではなく、後世の問いかけや議論によって常に更新されるものです。
  • 対話と議論による共通認識の形成(β 「解釈である」ということは、「どう解釈してもよい(歴史相対主義)」ということではありません。根拠と論理に基づいて自らの解釈を組み立て、対話と議論を通じて説得力のある認識へと高めていく学びです。
  • アイデンティティの相対化と「他者」との出会い(γ 自分たちの歴史(アイデンティティ)を学ぶと同時に、自らとは異なる立場や背景を持つ「他者」の歴史の存在を知り、相互の関係性のなかで「私」や「私たち」を捉え直します。

2. 戦後歴史学と歴史教育の「3つの潮流」

戦後日本の歴史学と歴史教育は、相互に影響を与えながら主に3つの段階(潮流)を経て展開してきました。現在はこれらが層のように重なり合って併存しています。

段階・潮流

歴史学の展開

歴史教育との関係性

1期:戦後歴史学

皇国史観への反省から出発。マルクス主義や発展段階論をベースに、人類共通の法則や社会構造を解明しようとした。

[伝達型] 歴史学の研究成果を、教育の場へ一方的に伝える関係。

2期:民衆史研究

国家中心の歴史への反省から、国家に翻弄・抑圧される「民衆(される側)」の視点や、地域・庶民の歴史(掘りおこし)に着目。

[主体・探究型] 教育現場が主体的に成果を取り入れ、生徒の「私」に訴えかける教育を展開。

3期:社会史研究

政治や経済だけでなく、日常の暮らし、文化、心性、他者との関係性などを多様な視点(「問いかけ」)から多角的に捉え直す。

[相互作用型] 「問い」を中心とした探究的学び。「歴史総合」の理念へと直接つながる動き。

3. 「日本史/世界史」体制の変遷と「世界史」をめぐる探究

戦後の歴史教育は long time にわたり「日本史」と「世界史」に分断されていましたが、「歴史総合」はこの枠組みを解体・統合しました。

  • 1949年(体制の始まり): 「国史」が「日本史」となり、「西洋史」と「東洋史」が統合されて「世界史」が誕生。
  • 1950年代(上原専禄の「世界史教育」):
    • 世界史を単なる外国史の羅列ではなく、「日本という立場(国民)」から世界との関係性を捉える学びとして構想。
    • 教科書は単なる暗記対象ではなく「教材」であり、教育現場での「具体践」を通じて世界史像を創り出すことを提唱(『日本国民の世界史』の試み)。
  • 198090年代(吉田悟郎らの「自国史と世界史」):
    • 1982年の教科書問題を背景に、国民国家の枠組み(自国中心主義)を批判。
    • 「個人・地域・日本・世界」の相互連関を捉え、「自国史」を世界史の文脈のなかで相対化する「世界史学」を提唱。

4. まとめ:「歴史総合」が目指すもの

テキスト全体の結論として、「歴史総合」の登場は以下の2つの大きな飛躍を意味しています。

  1. 「歴史叙述」から「歴史実践」への飛躍 完成された歴史テキスト(叙述)をただ受け取るのではなく、根拠をもって歴史を読み解き、現代の課題に対する「問い」を立てて議論する(実践する)主体へと生徒自身が立ち現れること。
  2. (いま)を捉える目を培う 歴史を学ぶことは、過去の出来事を知るだけでなく、時間を経て変化していく「関係性のなかの私」や「他者」を理解し、私たちが生きる「現在(いま)」を捉え直す力を養うことに他なりません。

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