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哲学する漱石

書籍概要

『哲学する漱石』は、長谷川徹によって著された作品で、夏目漱石を日本近代の重要な思想家として捉え、その哲学的思考を掘り下げています。

漱石は文学だけでなく、思想や哲学にも深い関心を持っており、彼の作品の中には思想的な探求が色濃く反映されています。

本書では、漱石の考え方がどのように形成され、また日本の近代社会にどのような影響を与えたのかについて論じています。

 

漱石の思想の概要

1. 自己本位から則天去私へ

   - 漱石の思想の進化は「自己本位」という視点から始まります。この考え方は個人の利益や幸福を重視するものであり、自己中心的な見方を反映しています。漱石自身も若い頃は自己の経験や感情に強くとらわれていました。

   - しかし、彼の思想は「則天去私」へと発展していきます。「則天」は自然の摂理に従うこと、「去私」は自己を超えることを意味します。漱石は、個人の欲望や感情から解放され、より高次の存在に至ることを目指しました。

2. 苦闘の過程

   - 漱石の思想の移行は、彼自身の内面的な苦闘を反映しています。自己中心的な考え方から脱却し、他者との関係や社会との調和を求める過程は、彼の作品における登場人物たちの葛藤と重なり合います。

   - この苦闘は、『吾輩は猫である』や『こころ』などの作品に顕著に表れており、自己を見つめること、他者を理解することの重要性が強調されます。

 

日本近代における漱石の意味

1. 思想的背景の提供

   - 漱石は、西洋哲学や文学の影響を受けつつも、日本の文脈の中で独自の思想を形成しました。彼の思想は、日本の近代化に対する批判的視点を提供し、伝統と近代の葛藤を表現しています。

   - 彼の作品を通じて、近代日本におけるアイデンティティの模索や、近代化に伴う倫理的問題についての深い考察が見られます。

2. 文学と哲学の融合

   - 漱石は、文学を通じて哲学的な問いを投げかけ、読者に思考を促すことを意図しました。彼の作品は、ただの娯楽としての文学に留まらず、深い思想的な考察の場として機能しています。

   - これにより、漱石は日本における文学と哲学の境界を曖昧にし、両者の相互作用を促進しました。

 

結論

『哲学する漱石』は、漱石の思想が日本近代において持つ重要性を解明する一助となる作品です。彼の自己中心的な見方から、他者との関係を重んじる思想への変遷は、漱石自身の文学的探索と深く結びついており、近代社会の複雑な問題に対する深い理解を提供しています。漱石の哲学を通じて、日本近代の文化的、社会的な変遷を考察することができるのです。

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