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エピクロスの処方箋 夏川草介著 読書メモ

エピクロスの処方箋

『エピクロスの処方箋』は、現役医師・夏川草介による哲学エンタメ小説で、前作『スピノザの診察室』の続編にあたりますが、単体でも楽しめる作品です A

🧠 作品の主題と哲学的背景

• 古代ギリシャの哲学者エピクロスが提唱した「快楽主義」が中心テーマ。

• ただし、ここでいう快楽とは「精神の安定」や「心の平静」を意味し、享楽的な快楽とは一線を画します。

• 作中では「快楽主義者だと言う奴に出会ったら十分に注意することだ。心の平静を求めているのか、ひたすら快楽を求めているのか、こいつは全く別物だよ」と語られています A

🩺 あらすじの概要

• 主人公・雄町哲郎は、大学病院で難手術を成功させてきた内科医。

• 母を亡くした甥のために地域病院へ移り、日々の診療に向き合う。

• ある日、大学准教授から持ち込まれた症例は、かつて哲郎が怒らせた権力者の父親だった。

• 哲郎は医療と哲学の狭間で、人間の幸福や命の意味に向き合っていく。

🌱 著者のメッセージ

夏川氏は「幸福とは何か」という問いに対し、エピクロスの「心に悩みがないこと、肉体に苦痛がないこと」に加え、「孤独ではないこと」を現代的な条件として提示しています A。多様性の名のもとに人間関係が希薄になりつつある今、物語が「温かな灯火」となることを願っているそうです。

スピノザの思想

スピノザの思想は、神が自然宇宙と同一であるとする汎神論(神即自然)を基盤とし、すべてが必然的な法則に従って存在すると考える決定論が核にあります。彼の哲学は、人格的な神を否定し、精神と身体が平行して進むと考える心身平行論、そして人間が自己の必然性を理解し受け入れることで真の自由に至るという考え方も特徴です。  

主な思想

·         汎神論(神即自然)

·         スピノザは、神を「自然」または「宇宙」そのものと同義だと考えました。 

·         神は宇宙の外部に存在する人格神ではなく、すべての存在や現象が神(自然)の一部であると捉えました。 

·         決定論と必然性

·         宇宙で起こるすべての出来事は、必然的な法則によって決まっていると主張しました。 

·         人間の行動や思考も、その人の性格や環境、過去の経験によって必然的に決定されると考えました。 

·         心身平行論

·         精神と身体は、同じ実体の異なる側面であると考え、分離できないものとしました。 

·         精神の変化は身体の変化に対応し、その逆もまた然りとして、心身の合一を説明しました。 

·         自由と理性

·         真の自由とは、自己を取り巻く必然性を理解し、理性的に受け入れることで得られると考えました。 

·         感情や恐怖に囚われず、理性的に真理を認識することで、精神的な平静と自由を獲得できると説きました。  

思想の影響

·         当時の宗教的な教義とは異なる「神」観を提示したため、無神論者として否定的に受け止められることもありました。 

·         しかし、その後の思想史において、汎神論や決定論、そして政治思想など多岐にわたる影響を与えています

 スピノザは「神即自然」という思想で知られる17世紀オランダの哲学者で、神を宇宙そのものと同一視しました。

 万物は神(自然)の一部であり、全ては自然の法則に従うため奇跡は存在せず、人間もその法則から逃れられないと考えました。

 彼の哲学は、人間と自然、そして神を一つのシステムとして捉え、心と体の関係を「心身平行論」として説明するなど、後に多くの思想に影響を与えたとされています。 

 

神即自然(神すなわち自然)

·         宇宙と神の同一視:スピノザの最も有名な考え方で、人格的な意思を持つ神ではなく、宇宙全体が神であるとしました。

·         万物は神の様態:全ての物事(人間、自然、精神など)は、この唯一の神(自然)の現れ方、つまり様態であると捉えました。

·         自然法則の絶対性:神即自然という考え方から、自然法則には例外がなく、奇跡や超自然的な出来事は存在しないとしました。

心身平行論

·         精神と身体の関係:人間には精神(思惟)と身体(延長)という二つの属性がありますが、これらは別々のものとして対立するのではなく、同一の実体(神)の異なる現れ方だとしました。

·         波と水:精神と身体の関係は、海の水と波の関係に似ています。水(神)が波(精神・身体)となって現れるように、心と体は一つの実体の異なる側面なのです。

倫理観(「善」と「悪」について)

·         絶対的な善悪はない:スピノザは、物事の「善い」「悪い」は、絶対的に決まっているのではなく、ある人や物事に対してどう影響するかという関係性によって変わると考えました。

·         活動能力の増大:「自分の活動能力を高める」ような組み合わせや関係がその人にとって「善い」ものだとしました。

·         コナトゥス(自己維持の力):全ての物には、自分を維持し続けようとする力(コナトゥス)があり、それを高めることが「善く生きる」ことにつながります。

『エチカ』

·         幾何学的な手法:スピノザの主著『エチカ』は、ユークリッド幾何学の定義・公理・定理といった形式を用いて、哲学体系を数学のように緻密に構築しています。

·         「エチカ」の本当の意味:「倫理学」という意味でありながら、特定の規範や威圧的な力ではなく、人が「善く生きる」こと、つまり自らの力を最大限に発揮して生きるための哲学を説いています。

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