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江口朴郎著『帝国主義と民族』のまとめ

江口朴郎著『帝国主義と民族』のまとめを、**「資本主義と国民国家形成・帝国主義の同時展開」**という江口史学の核心を軸に、以下の3つの主要論点と背景を加えて整理し、構成し直しました。


📚 江口朴郎『帝国主義と民族』の論点整理

1. 時代背景と江口史学の立ち位置

江口朴郎(191189)は「戦後歴史学」の旗手であり、本書は1950年代前半に著された代表的な帝国主義論です。

  • 世界観の基盤: 近代世界を資本主義の時代と捉え、1848年革命以降、資本主義に内在する「反動性」が露わになり、新しい国際関係が形成されたと見ます。
  • 独自な歴史像: 大塚久雄が「資本主義と市民社会の同時展開」を論じたのに対し、江口は**「資本主義と国民国家形成・帝国主義の同時展開」**があったと論じました。マルクス主義に立ちながらも、独自の世界史像を提示し、後続の歴史家に大きな影響を与えました。
  • 同時代との対決: 朝鮮戦争、サンフランシスコ講和条約、日米安保条約締結といった1950年代の歴史状況の中、同時代と切実に向き合う歴史学を構築しようとしました。江口にとって、当時もまた帝国主義の時代であり、それに対抗する主体は19世紀と同じく「人民」の自発性、すなわち**「民族」**の形をとって現れると考えました。

2. 主要論点:資本主義の「反動性」と世界史の構造分析

江口史学の第一の特筆すべき点は、マルクス主義歴史学や大塚史学が陥りがちな概念的思考に警鐘を鳴らし、「新しい問題観に従って、概念そのものを発展させ、古いものを新しく見直すこと」を強調した点です。

分析の焦点

内容

類型分析 🆚 構造分析

大塚史学のような歴史発展の**類型分析(タイプへの着目)**ではなく、世界史という枠組みでの構造分析を重視。

帝国主義の本質

資本主義には、民衆の主体的な要求を抑圧する**「反動性」**があり、これが決定的になるのが帝国主義である。

階級支配の欺瞞

帝国主義は、革命的な民衆に対抗するため、民衆の要求を歪曲・欺瞞的な方向に逸らそうとする(例:国内危機を対外拡張で緩和、ファシズムへのつながり)。

「不均等な発展」

資本主義の反動性による旧体制の温存が、世界史における**「不均等な発展」**を生み出す(ドイツ、日本、ロシアの歴史)。

ドイツ・日本の歴史観

ナチズムや軍国主義に至る歴史を「不完全な資本主義・市民社会の発展タイプ」と見るのではなく、資本主義の世界史的展開そのものが民主主義を否定する歴史を生み出したという、同時代的な構造分析を重視。


3. 主要論点:帝国主義に対抗する「民族」の主体性

江口は歴史の中に生きる民衆の主体性を強く重視しましたが、その主体性は市民社会のエートスではなく、「資本主義の帝国主義的発展に対抗する主体性」として問い直されました。

  • ナショナリズムの契機: ばらばらの個人が集団的に行動する切実な契機がナショナリズムであり、主体的な民衆は**「民族」**として現れると捉えます。
  • 主体性の課題: 帝国主義下で「平和か戦争か」「真の独立か外力依存か」という対抗関係において、いかに主体的に生きるかは「民族」意識の形成に大きく左右されます。
  • 「正しいナショナリズム」: ナショナリズムが戦争や外力依存に利用されないよう、「正しい方向」に発展させることが課題です。そのために必要な二つの性格を提示しました。
    1. 国際的な従属体制を是正しようとするまなざし(近代批判)
    2. 民衆の意志と結びついた主体的な契機
  • 国際的連帯性: ナショナリズムは「一つの国際的連帯性」を持たねばならないと分析し、世界史を**「アジアの中の日本人としての主体性を問い直すもの」**と位置づけました。

4. 主要論点:歴史叙述への批判と世界史構想の提言

江口は、従来の歴史叙述が帝国主義下で抑圧される人々の姿を見失っている点を批判しました。

  • 従来の歴史叙述への批判:
    • 帝国主義の歴史を国家同士のパワーゲームのように捉える描き方を批判。
    • 国民国家の形成が、対外・国内双方で人々に対する新しい抑圧につながっている以上、その人々の様子が見えてこない歴史叙述は不適切であると問題提起。
    • 日本の世界史教育が「各国史の寄せ集め」として「国の発展」を説明するに留まり、帝国主義時代がパワーゲームの学習になっている現状を批判。
  • 限界と貢献:
    • マルクス主義者として、国内外の抑圧を階級対立の図式で単純化してしまう傾向や、「民衆の主体性」の概念的・観念的な側面も指摘されています(例:ロシア革命の解釈)。
    • しかし江口は、断片的な知識を与えるにすぎない日本の世界史教育を批判し、**「日本人としての主体性を貫いた『世界史』」**を構想すべきであると提言。
    • これは自民族中心史観とは一線を画するものであり、「アジアのナショナリズム」をどう認識するかが問われてくると論じ、日本人や民族を歴史的に問い直す必要性を訴えました。

このように整理すると、江口史学の核心は、資本主義の「反動性」が生み出す帝国主義の世界構造を分析し、それに対抗する主体として「正しいナショナリズム」を帯びた「民族」の主体性を重視した点にあると言えます。

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