ぶらり、散歩に読書 ミチクサノオト

現代世界と歴史学の転換点

現代世界と歴史学の転換点:論点の整理

    歴史の大きな転換期における歴史学の役割の変化と、グローバルな視点での「私たち」の歴史の再構築、そして未来への動機づけとなる歴史学習のあり方の三点です。

1. 歴史観の変化と「未来」を語る歴史学の役割

かつてのマルクス主義的歴史観は、「未来」への着実な進展を自明としていましたが、その影響力が低下した現代では、多様な歴史認識が生まれる一方で、歴史家が「未来」を語らなくなってしまったという現状を指摘しています。

 * 提言: 筆者は、歴史を考えることは、現在を**「過去」とともに「未来」に向けて語る**ことに他ならないとし、歴史学が再び「未来」に目を向けることの重要性を強調しています。

2. グローバル・ヒストリーの登場と「私たち」の再定義 🌐

現代の「グローバル化」の世界に対応し、歴史学は「グローバル・ヒストリー」という新たな方法論を展開しています。

 * 従来の見方: これまでの日本の歴史学は、「私」「家族」「地域」「日本」という同心円的な四層で「私たち」の歴史を捉えてきました。

 * グローバル・ヒストリー: **「長い時間」と「広い空間」**の中で「私たち」を捉え直す方法であり、ローカル、ナショナル、リージョナル、グローバルという四層で歴史を考察することを提案しています。

 * 重要性: 新たな見方(グローバル・ヒストリー)は、これまでの歴史学の見方や叙述を無効にするものではなく、従来の知見を点検し、対話を重ねることによって、より深い歴史理解につながると述べています。これは、「手持ちの資源と思考法をどう使うか」という検討を意味します。

3. 個別的な歴史経験の記憶と未来への動機づけ

普遍的な規範や理想(例:民主主義、人権)を実現するためには、それを根づかせる具体的な動機づけが重要であるとし、個別的な歴史経験の記憶がその役割を果たすことを強調しています。

 * 理論的背景: 戦後ドイツがホロコーストの記憶を民主主義社会の建設に結びつけた事例を引用し、普遍的価値の実現には個別的な歴史経験の記憶が不可欠であることを示しています。

 * 「個別的な文化」の価値: 南アフリカのスティーヴ・ビコの思想(アフリカの「個別的な文化」が世界に「もっと人間的な顔を与える」可能性)を例に挙げ、抑圧されてきた人々の思想や文化のなかに、普遍的な価値に対する個別的な文化の貢献を見出しています。

 * 教育への提言: 高校の「歴史総合」において、生徒一人ひとりが、これからの地球社会を考える際の動機づけになるような「個別的な」歴史経験や思想を探究する学びを推奨しています。

 * 学びの目標: 生徒が探究した「私が」という一人称単数の歴史が、教室での対話を通じて**「私たちが」という一人称複数の主語になりうるか**を模索することを目指しています。

結論:他者との対話による歴史学習の展望 🤝

現代の世界は、人種主義や植民地主義の抑圧がジェノサイドや難民問題、さらにはパンデミックにおける格差に繋がる一方で、抑圧されてきた人々が声を上げ始めた時代です。

 * 目指す歴史学習: 「他者をとおして自分を相対化するまなざしこそが人類の幸せを展望できる」という視点に立ち、歴史上の他者や現代の他者(教室の生徒も含む)と**「たくさん出会い、対話」**を重ねること。

 * 歴史総合の役割: 自分の常識や世界観を問い直し、人類の存続のために何を学ぶべきかを考える、スリリングな学びになることを願っています。

    歴史学が単なる過去の学問ではなく、グローバルな視点と他者との対話を通じて、現在を生きる「私たち」の未来を形作る上で不可欠な営みであるという強いメッセージを提示しています。

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