ぶらり、散歩に読書 ミチクサノオト

2026-1-29 第2稿  リライト

2026-1-29 第3稿 リライトしてみた 
未来を見つめる、孤高の森の文人  ― 吉野孝の断想 ―(リライト稿) 
プロローグ:忘れないでください 
菊田公民館の静謐な書架で、私は偶然その一冊を手に取った。ページをめくるたび、
私たち夫婦と飯綱の山荘で語り合ったホワイトクリスマスの夜が、まるで昨日のことの
ように蘇る。和服を端然と着こなし、穏やかな眼差しで未来を語っていた吉野先生の
微笑。 
「忘れないでください」 
その一言は、単なる感傷ではない。彼が習志野という街の土壌に蒔いた「本物の文
化」という種が、今を生きる私たちの心の中で枯れずに響き続けているか。時代が移
ろい、景色が変わっても、守るべき価値を守り抜いているか。これは、未来へ向けた
静かでありながら峻厳な問いかけである。 
第一章:文教住宅都市憲章と教育政策三原則 ― 文教
センターの試行 
市長に就任した吉野を待ち受けていたのは、「工業開発の県案の論理」という巨大な
荒波だった。京葉港の埋め立て、無機質な産業開発の波。街が単なる「寝床」や「工
場地帯」に成り下がることを、吉野は断固として拒んだ。 
彼は「文教住宅都市憲章」と「公害防止条例」という、当時としては画期的な思想的防
波堤を築き上げる。その象徴が、東習志野での「文教センターでの試行」である。吉
野は単に施設を建てたのではない。幼児教育から高等教育までを一貫した学びの場
とし、そこを「教育の聖域」とした。 
秋津保育所では、現場の保育士たちがモンテッソーリやシュタイナーの思想に共鳴
し、手作りで教具を揃えた。その熱気は、政治の力で「教育格差なき人生の出発」を
保障しようとした吉野のヘッドスタート・プランへの、祈りにも似た執念の結実であっ
た。 
第二章:一中跡地の決断 ― 文化振興の開発コンペと
「最高品質」の音色・響き 
津田沼駅南口、鉄道連隊の記憶が残る一中跡地を、吉野は「市民の魂の拠点」と定
めた。不景気の風が吹き荒れる中、彼は周囲の反対を押し切り、文化振興のための
開発コンペという大胆な手法を採る。 
「子どもたちに、木と風が奏でる最高品質の本物を」 
批判の矢面に立ちながらも、吉野はタブロイド版『広報習志野』を通じ、市民という名
の株主へ、一歩も引かずに説明を尽くした。日本初の本格的パイプオルガンの導入
は、目先の効率を捨ててでも守るべき「感性の未来」への投資であった。 
その種は、今や「音楽の街」として全国に轟く習志野高校吹奏楽部や、小・中学校の
輝かしい吹奏楽の音色となって開花した。現在の「文化ホール・ロス」に震える市民の
声は、吉野が遺した「本物」がいかに深く街のアイデンティティとなっていたかを雄弁
に物語っている。 
第三章:青い空とつややかな緑を守る ― 懸案の論理
を排して 
「青い空とつややかな緑を守る」。それは吉野にとって、政治家以前に、一人の人間と
しての生存条件であった。津田沼の自宅、蔵庵風の書斎「梅里閑亭(ばいりかんて
い)」で、彼は彫刻、絵画を愛で、三遊亭円生の落語に耳を傾け、季節の変化を全身
で受け止めた。 
「季節の変化が目に飛び込んでくると、心の灯がパッと灯る」 
この繊細な感性があったからこそ、彼は県案の冷徹な工業論理に抗うことができた。
「懸案の論理」という名の安易な妥協を排し、地方自治の誇りを持って市民の生活環
境を守り抜いた。梅里閑亭で練られた都市経営の諸策には、常にこの「守るべき美
学」が通奏低音として流れていた。 
第四章:信州の自然と芸術文化の涵養 ― 新しい音楽
創造への道 
重責を担った歳月を終え、吉野は飯綱高原の「音楽の森」へと拠点を移す。森の中に
佇む山荘は、新たな創造の場となった。窓外には岡谷潮が描くような光と影が交錯
し、吉野はここで亡き円生師匠を追想し、石橋征次さんのフルトヴェングラーの指揮
術、辻久子さんとヴァイオリン奏法の精神性 モーツアルトの楽曲について語り合っ
た。 
若き演奏家たちが「精進」という険しき道を歩む姿を、吉野は慈しみをもって見守り続
けた。毛利友美さんら次代の才能へ向けた「厳しい精進を祈ってやまない」という言葉
は、彼の遺言でもあった。 
行政の長から、自由なる文人へ。森の静寂の中で綴られた『甦る断想』は、少年少女
オーケストラへ、また未来の習志野へ向けて振られた、魂のタクトであった。 
エピローグ:未完のシンフォニー 
「わたしの日は未来にのみ向いて――」 
吉野が遺したこの言葉は、今、沈黙する文化ホールの前で立ち止まる私たちへのエ
ールである。 
彼が遺したものは、石造りの建物ではない。自らの心の鍵盤で、いかに豊かな未来
の音色を響かせるかという「エシェール(音階)」である。 
吉野先生。私たちは今も、あなたの蒔いた「本物の響き」を探し続けています。

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