大塚茂男 著 地方公共団体の行財政マネジメント 中央経済社
地方公共団体の財務書類の作成モデルである「総務省方式」が公表されてから20余年が経過し、多くの地方公共団体で導入されているが、その活用が進んでいないのが実情である。 少子高齢化・人口減少による財政規模の縮小や、コロナ禍対策により増大した歳出の高止まりにより、地方公共団体の財政状態は急激に悪化している。そして、その状況の悪化が従来の財政状況ではなかなか見えてこない。 今こそ財務書類の分析を通じて、地方公共団体の財政状態を把握することが必要になっている。 本書では、これまで用いられてきた財務指標には限界があり、資金収支計算書、貸借対照表、損益計算書、行政コスト計算書、純資産変動計算書から行財政上の課題が浮かび上がることを示す。 そのうえで、中長期計画を介した財務書類の活用を論ずる。 [目次]
第1章 地方公会計改革の目的と方向性;
第2章 従来からの財政分析手法の限界;
第3章 収支の質の評価―資金収支計算書の活用;
第4章 ストック情報を用いた将来負担の把握―貸借対照表の活用;
第5章 資源の投入量に基づく活動規模の把握―行政コスト計算書の活用;
第6章 行財政運営における財源と世代間負担―純資産変動計算書の活用;
第7章 財務書類と予算編成との連携;
補遺 財務書類の分析手法
本書の全体像:何を明らかにしようとしているのか
本書の核心は次の一点に集約されます。
地方公会計の財務書類(総務省方式)は整備されたが、活用されていない。
だからこそ、財務書類を“読む力”と“使う力”を再構築しなければ、地方自治体の行財政運営は立ち行かない。
背景には、
• 少子高齢化・人口減少による税収基盤の縮小
• コロナ禍で膨張した歳出の恒常化
• インフラ老朽化による将来負担の増大
があり、従来の「現金主義ベースの財政指標」では危機が見えにくくなっているという問題意識があります。
そこで著者は、複式簿記・発生主義に基づく財務書類(資金収支計算書・貸借対照表・行政コスト計算書・純資産変動計算書)を、実際のマネジメントにどう結びつけるかを体系的に示します。
章ごとのポイントを整理
第1章 地方公会計改革の目的と方向性
• 「総務省方式」の導入目的は、自治体の財政を企業並みに“見える化”すること
• しかし、作成が目的化し、経営判断に使われていない
• 今後は「財務書類を使って意思決定する」段階へ移行すべきだと主張
第2章 従来の財政分析手法の限界
• 実質収支、経常収支比率、将来負担比率などは現金主義ベース
• インフラ老朽化や資産劣化、減価償却費などが見えない
• そのため、財政悪化の兆候を早期に捉えられない
第3章 資金収支計算書の活用(収支の質の評価)
• 現金の出入りを「経常」「投資」「財政」の3区分で把握
• どの収支が構造的に赤字なのかを明確化
• 例:経常収支が赤字なら、組織の“体質”が悪いことが一目でわかる
第4章 貸借対照表の活用(将来負担の把握)
• インフラ資産、基金、負債、退職給付などを網羅
• 自治体のストック情報を可視化
• 老朽化資産の更新費用や、将来の財政圧迫要因を読み取れる
第5章 行政コスト計算書の活用(活動規模の把握)
• 行政サービス提供に必要なコストを算定
• 減価償却費や退職給付費など、現金支出に現れないコストも含む
• 「行政サービスの本当の値段」を把握できる
第6章 純資産変動計算書の活用(財源と世代間負担)
• 純資産の増減から、• 今の世代が将来世代に負担を押しつけていないか
• 財政運営が持続可能か
を評価
• 「世代間公平性」を測る重要な指標として位置づける
第7章 財務書類と予算編成との連携
• 本書のクライマックス
• 財務書類を単なる“決算書”ではなく、
中長期計画・予算編成・政策評価と連動させる方法を提示
• これにより、自治体経営がPDCAサイクルとして機能する
補遺 財務書類の分析手法
• 実務者向けに、分析の手順や指標の読み方を整理
• 研修教材としても使える内容
本書が示すメッセージの核心
1. 財務書類は「作るため」ではなく「使うため」にある
自治体の多くは、総務省方式を“義務的作業”として扱っているが、著者はそれを強く批判します。
2. 従来の財政指標では、危機が見えない
現金主義の指標では、インフラ更新費用や将来負担が隠れてしまう。
3. 発生主義会計こそが、持続可能性を測る唯一の方法
貸借対照表や行政コスト計算書を使うことで、
自治体の“真の財政状態”が初めて見える。
4. 財務書類は中長期計画と結びつけて初めて意味を持つ
単年度予算だけでは、人口減少時代の財政運営は不可能。
財務書類を軸にした戦略的マネジメントが必要だと説く