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『介護格差』(結城康博・岩波新書)

2026-4-9

団塊世代が全て75歳以上の後期高齢者となり、団塊Jr。世代は50歳を超える2025年。介護問題がさらに深刻化していくのは必定とされる。経済、医療・健康、情報、地域、親類・縁者、世代間、意識の7つをキーワードとして、介護保険の実態や課題を余すところなく解説。誰もが安心した介護生活を送るための決め手を探る。

 結論から言うと、『介護格差』(結城康博・岩波新書)は、
「介護は経済力だけでなく、人間関係・地域・情報・世代・制度など、複数の要因が絡み合って格差として現れる」ことを、豊富な事例と制度分析を通して立体的に描き出した一冊です。

そして著者は、2025年以降の本格的な介護危機に備えるために、個人の「介活」と、社会制度の抜本改革の両方が不可欠だと主張します。

以下では、本書の全体像を「何が問題なのか」「なぜ格差が生まれるのか」「どうすればよいのか」という軸で、構造的に整理して解説します。

本書の核心:介護は「7つの格差」が重なって生まれる

本書は、介護格差を次の7領域で捉えます。

  1. 経済格差(介護費用・年金・貯蓄・保険料)
  2. 人間関係格差(頼れる人の有無・身元保証人)
  3. 医療・健康格差(健康寿命・疾患・認知症)
  4. 地域格差(介護人材・自治体財政・サービス量)
  5. 情報格差(制度知識・施設選び・SNS情報)
  6. 世代間格差(団塊団塊ジュニアヤングケアラー)
  7. 意識格差(介護への備え・「介活」)

これらが複雑に絡み合い、「勝ち組/負け組」の介護格差が生まれるというのが本書の主張です。

序章:介護は「人とのつながり」で決まる

  • お金も大事だが、それ以上に人間関係の有無が介護の質を左右する
  • 年金10万円層は生活が厳しく、サービス利用も制限されがち。
  • 「ケチな要介護者」など、性格や態度が介護者との関係に影響するというリアルな視点も提示。

1章:やっぱり「おカネ」次第?

介護費用・介護期間の現実

  • 介護費用は想像以上に高く、期間も長期化しやすい。
  • 年金・貯蓄の格差が、そのまま介護の選択肢の格差になる。

貧困層・裕福層のリアル

  • 木造アパートで孤立する高齢者
  • 裕福でも「ケチ」でサービスを使わず悪化するケース

介護保険料の格差

  • 滞納者が増加し、ペナルティも重い。
  • 保険料そのものが自治体で大きく異なる。

老後資金2000万円問題

  • 厚生年金と国民年金の格差は深刻。
  • 国民年金のみの層は介護リスクが高い。

生活保護は「最下位」ではない

  • 医療・介護の自己負担ゼロで、むしろ介護アクセスは安定
  • 生活保護受給者のほうが介護がスムーズな場合もある。

2章:頼れる人がいるか否かで決まる介護の明暗

「おひとりさま」は気楽ではない

  • 施設の3割は身元保証人がいないと入れない。
  • 医療同意の問題も大きい。

成年後見制度の限界

  • 後見人は「生活の細部」までは支えきれない。
  • 親族以外の保証人ビジネスも登場。

仲間の重要性

  • デイサービスでの人間関係が生活の質を左右する。
  • 介護は死後の手続きにも格差が及ぶ。

3章:医療・健康格差

健康寿命の差が介護格差を生む

  • フレイル予防、コミュニケーション力の差が大きい。
  • 認知症の有無は介護負担を劇的に変える。

病気と介護の複雑な関係

  • 医療的ケアが必要な場合、入れる施設が限られる。
  • がんと介護の両立は特に難しい。

コロナ禍で露呈した脆弱性

  • 面会制限、クラスター、衛生用品不足。
  • 在宅介護の機能低下が顕著だった。

4章:介護人材不足と地域間格差

人材不足の深刻さ

  • 小規模デイサービスの閉鎖
  • 訪問入浴が使えない地域
  • 依頼を断られるケースが増加

地方の厳しい現実

  • 徳島県三好市、離島などではサービスが極端に不足。
  • 市町村の財政力・首長の姿勢でサービス量が大きく変わる。

ケアマネ不足

  • ケアマネが見つからない地域が増加。
  • 給与・労働環境の格差が背景。

5章:介護は情報戦

知っているかどうかで結果が変わる

  • 制度・サービスの知識がある人ほど有利。
  • SNS情報のメリット・デメリット。

民間相談センターの台頭

  • 13050万円の紹介料。
  • 貧困ビジネス化するリスクも指摘。

高級老人ホームの世界

  • 高収入層が集まり、サービスも手厚い。
  • ここでも格差が明確。

6章:団塊ジュニア世代の介護危機

人口構造の問題

  • 団塊世代が後期高齢者に、団塊ジュニアは50代へ。
  • 介護需要は増えるが、支える側は減る。

家族介護の多様化

  • ダブルケア、シングル介護、多重介護。
  • 男性介護者も増加。

ヤングケアラー問題

  • 子どもの教育・生活に深刻な影響。
  • 外国人シングルマザー家庭など、複合的な困難も。

仕事と介護の両立格差

  • 介護離職は依然として多い。
  • 大企業は対応が進むが、中小企業は遅れがち。

7章:2024年改正介護保険の問題点

  • 自己負担増、福祉用具の選択制、訪問介護の基盤弱体化。
  • ケアマネ更新制度廃止など、現場の期待に反する内容が多い。
  • 2027年改正が「正念場」と位置づけられる。

8章:格差是正のための処方箋

著者の提案

  • 介護報酬10%引き上げ
  • ヘルパーの公務員化
  • 特養ホーム政策の転換
  • 介護人材紹介業の規制
  • 新資格「療養介護福祉士」の創設
  • 公費投入(法人税・資産課税・消費税などの議論)

介護は「負担」ではなく「投資」だという発想転換を求める。

終章:「介活」で格差を乗り切る

著者が強調するのは、制度改革だけではなく、個人の備え

介活のポイント

  • 支えられ上手になる(ハラスメントをしない)
  • 口コミを活用
  • 親子で早めに話し合う
  • 相談機関を把握
  • かかりつけ医を持つ
  • 元気なうちは働く
  • 災害時の支援計画を確認

介護は生活であり、人間関係であり、情報戦であり、政策でもある。
そのすべてに備えることが「介活」だと本書は説きます。

まとめ:本書が伝える最大のメッセージ

介護格差は、個人の努力だけではどうにもならない構造問題である。
しかし、個人の備え(介活)と社会制度の改革の両輪があれば、格差は縮められる。

本書は、制度論・現場のリアル・個人の備えを一冊に統合した、
2025年問題」以降の日本社会を考えるための実践的なガイドです。

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